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重い鉈をハタキか何かのように振り回しながらも、オノ君は呼吸を乱さない。
「こうやって道を開いても、一週間で元どおりになります。植物は素早く成長して3日も待たず空間を塞いでしまう」
オノ君は一歩進むごとに鉈を振るい、文字どおり道を切り開いていった。
「逆を言えば、若い草と蔦ばかり集まったあたりを選びさえすれば良いのです」
明るい声で、歌うような節回しをつけて教えてくれた。密林の奥深くで生まれ育った彼にとっては、きっと何でもないことなのだろう。
一行に加わっているもう一人の日本人、院野仙太は両膝に手をついて肩で息をしている。汗が、荒い呼吸とともに、あご先から滴り落ちた。
院野は大手総合商社の海外駐在員で、普段はこの国いちばんの都会で暮らしている。野外でのフィールドワークなどしたこともない。密林を移動することがどれだけ辛いか知らずに、森林地帯最深部への旅を決めたのだ。今はさぞかし後悔しているだろう。
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