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『姉』と彼は言った。それがなんだか、寂しい感じがした。小さい頃は、『お姉ちゃん』とたどたどしく呼んで、私達の後ろをテコテコとついて来ていた彼が、今は余所行きの言葉を私に向けている。私はなにげないふりをして「そう」と短く返事をした。
「じゃあ、お願いしちゃおうかな。ゆっくり話したいし」
この子は、こんなにも上手に愛想笑いができる子だっただろうか。私は戸惑う。「お邪魔します」と助手席に乗り込んで来た彼が、まるで知らない男の人に見えた。冷静さを取り繕おうとした指先が、必要以上に力強く、ハザードランプを解除するボタンを押す。
「……そう言えば、裕ちゃん。反対したんだって?」
私はふと、親友に聞いた、彼の彼らしいエピソードを思い出していた。
裕ちゃんは「うん? なんの話?」と、いまいちピンときて居ない様子である。
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