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「仕事、ねぇ……」
彼は納得していないようである。私は黙る。言葉が見つからなかった。幼き日の残像を抱えたまま、気付けばもう、こんな歳まで歩いてきていた。後戻りができないくらいに、私は一人で歩き過ぎたのだ。
別に、裕ちゃんが好きで好きでどうしようもないと言うほどではない。裕ちゃんを想って操を守り続けて居るような初心な女でもない。ただ、彼をそっと詰め込んだ宝箱を抱えているだけで、私は満足していた。私には宝箱があるから、と言い訳をして、愛やら恋やらと真剣に向き合うことがなかった。
「まあ、そのうち適当にお見合いでもするよ」
「家のために?」
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