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「えーと、私から行きますね。私のお見合い相手様のお名前は『ことり』さんです」
ありのまま伝える。
「……え?」
そりゃそうだ。
お見合いをしに来て部屋を開けたら女の人がいて、その人の相手の名前が自分の名前なんだから。
「『ことり』って男性なのに珍しい名前ですよね~。このようなお名前は、大体は女性につけられると思っていたのですが……それは偏見だったようですね……そういえば、あなたのお見合い相手様のお名前は……?」
冗談を言いながら名前を言うように促すと、偶然だとでも思ったのか、口を開いた。
「私のお見合い相手様のお名前は『海未』さんです。普通の『海』に未来の『未』で海未って読むんです。珍しい名前ですよね」
もちろん出てくるのは聞き慣れた私の名前。
だから、驚いたような演技をする。
「……え?」
「え?」
相手も聞き返してくる。
脂汗が見える気がするが、気にせずに言う。
「あの……その名前、私の名前です」
「……」
そりゃそうだ。(2回目)
相手のお見合い相手の名前が自分で、自分のお見合い相手の名前が相手の名前ならば、必然的にその2人がお見合い相手、と言うことになる。
同じ店内に、同じ条件で、同じ名前の人が2人いるなんてありえないのだから。
「……」
「……」
沈黙が続く。
「……えーと、もしかして、あなたも……?」
遠慮なく聞かせていただきますよ?ことりさん!
「……はい、ことりです」
チュドーン!
私が事実を知らなければ、そんなような音が胸の中に鳴り響いていたでしょう。
まぁ、知っていたので鳴り響いたのはことりさんの方でしょうけど。
「こ、これは、あれですかね?あの、最初に言った、間違いの可能性が…」
あまりにも可哀想なので助け船を出してやる。
「あ、そ、そうですね!きっとそうですよ!うん!」
ことりさんが、ものすごい勢いで首を縦に振る。
「と、とりあえず、母に連絡してみますね!」
急いで携帯を探す彼女の姿をぼんやりと見守る。
「し、失礼しました…」
ピシャリ
………意外に可愛い人だった。
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