Ⅲ.目からウロコ

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 と、横井が俺の鞄の肩ひもを調節するベルト部分をつまんできた。制服じゃないのは放っておいて、見ると横井は視線で「言っちゃう?」と訴えかけてきていた。  言った方が良いっていうのはなんとなく分かる。だけど、さっき隼人が自分で明言したみたいに卒業まであのことをひたすらいじられるんだとしたら、それは嫌だ。せっかく授業で凝り固まった体と羽根を伸ばせる時間だっていうのに、仮にそうなったら余計に疲弊するのは目に見えている。だからって、「何か」があったっていうところまでバレてるのに言わないんじゃあ……それもそれで聞きまくられる。  だったらいっそのこと、ここで打ち明けるのも一つの手なんじゃないのかとさえ思ってきた。どうせまだ正式に付き合ってるっていうわけじゃないんだし、ちゃんと理由を話せば隼人だって納得する、はず。  俺は目線で「言おう」と送り、それを感じ取ったらしい横井は頷いた。その様子を見ていた隼人は呆けた目で「何してんの?」と呟く。  俺と横井は打ち合わせしたわけでも無く、――そもそもそんな暇なんて一切合切無かったわけだが――ただその場の雰囲気に乗って話し出した。 「実はな、隼人。横井なんだが……」 「私……響が好きなの」  それは無意識にも、意識的にも思えた。横井が俺のことを好きだという紛れもない事実は本人の口から言わなければならない。そういう暗黙の了解のようなものが俺たちの間でこの刹那の間に誕生したのかもしれない。 「……マジで?」  隼人が数拍遅れて驚く。 「マジ。ドッキリでも夢でもない、現実」 「いや、それを言ってるんじゃなくて……え、マジで好きなの?」 「うん、好き」 「それを響は知ってて……」 「まだ返事してない。そんなすぐに返事できるほど安く考えられる人間じゃねえし」  それでようやく隼人は合点(がってん)がいったらしい。目を見開いて驚いたまま「え~え~、あ~そー。そーなん、だ~。あーうん、ダイジョブだよー。落ち着いてるから~うん、だいじょぶだいじょぶ~」と明らかに落ち着いていない反応をした。一昔前に売れたピン芸人のネタも混じっていた気もするが、そこは気にしない。
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