Ⅲ.目からウロコ

23/23
15人が本棚に入れています
本棚に追加
/115ページ
 横井は手に持っていたそれを俺の前に掲げてみせた。側溝に溜まった泥でひどく汚れているが、間違いなく俺の内履きだ。洗っても取れないほど汚れている。 「サンキュッ。でも、これじゃ使えねえなぁ」 「洗っても落ちなさそうじゃん。どうするの?」 「新しいの買うしかないだろうな」  そんなことを言いながら洗濯に出せばいいかと思っていた。母さんに手間をかけさせるけど、高一の夏にもう新品に買い替えるより幾分かマシだ。  俺たちがその後もいろいろ言い合っている間に近衛は一人で靴を履き替えていた。 「あ、近衛帰る?」 「う、うん」 「気を付けて帰れよ」 「うん。じゃ、じゃあまたね」 「おう」  手を振り返すと、近衛は安心したように笑んで昇降口を出て行った。 「なんか、思ってた近衛さんのキャラじゃなかったね」 「そうだな。俺も未だに信じられねえわ。あれが伏木に食って掛かってたやつと同一人物かよ」 「だね。さて、帰ろっ」 「だな。あ~腹減った」  できるだけいつも通りに振舞った。帰っている間も。そして途中で横井と別れ、家に帰って洗濯機の中に内履きを放り込んだところで母さんに声を掛けられた。 「おかえり、響」 「ただいま、母さん。内履き、だいぶ汚れてたから洗っておいてよ」 「分かったー。……あ、そうだ」  思い出したように俺に手招きをする母さん。何のことか分からず、その方に歩くしかできなかった。 「今テレビ見てたんだけどさ、あれ何? どういうこと?」 「え?」  母さんの指が指す方に目を向けると、テレビではニュースを報道していた。その内容というのが、まさかのものだった。 『――逮捕されたのは、市内の県立高校に通う十六歳の女子高校生、伏木凪沙容疑者。警察によりますと、伏木容疑者は二人の同級生を蹴り、刃物で切り付けるなど、暴行と殺人未遂の他、多数の容疑で現行犯逮捕となった模様です。現在、警察は伏木容疑者の取り調べを行っており――』 「この高校ってさ、響が通ってるとこ、だよね?」  母さんが聞いてくる。それに俺は、何も言えなかった。  伏木が逮捕された。その事実が、それこそ警察の動きみたいに素早く頭に入って来ただけだった。
/115ページ

最初のコメントを投稿しよう!