Ⅰ.夏の夕空

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 そもそも横井だって、あの流れですき焼きを突然出すほどアホでも無ければ馬鹿でもない。これは友人の贔屓(ひいき)目とかじゃなく、確実に。世間一般的に見ても(むしろ馬鹿でアホなのは俺の方だと自負する。何の得にもならねえけど)。  とにかく、最近の横井であんなのは見たことが無い。中一の時に話すようになってから今まで、俺が覚えてないだけかもしれないけど、たぶん無いと思う。  とりま、一緒に過ごしていれば分かることもあるかもしれないし、気にすることでも無いか。  昇降口で靴を履き替えて教室に戻ると、隼人は机に突っ伏して寝ていた。俺の机には俺の宿題とお礼のつもりなのか校舎内の自動販売機で買える紙パックのジュース。それと付箋が一枚くっついていた。 「宿題サンキュー by隼人」  いや、素直に口で言えよ。ヤローがやっても可愛くもなんとも無いわ。そういえばこいつ、親の影響で家に少女漫画めっちゃあるって言ってたな。それに感化(かんか)されたのか? だとしても男なら素直に来いよ、この乙女(おとめ)チックな野球バカ。  俺が宿題とジュースを片付けてふと窓の方に目を向けると、髪の短い憂い気な横顔が見えた。伏木だった。そういえば、彼女はいつもこのくらいの時間に来てるんだっけ、と時計を見る。  八時半。まだ十分も時間がある。待っている間の十分は長いのに、どうして楽しい十分は短いんだろうな。
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