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「ばっちゃとはこないだ、バイバイしたよ。なのにひぃじっちゃ、バイバイさせてくれないの? ひぃじっちゃ、どこにいるの?」
「……ひぃ、じっちゃんは、もう。何処にも居ないよ。」
「ひぃじっちゃ、みぞれさんにも、バイバイ言ってないよ?」
この子は何を言っているんだ。頭の中がぐわんぐわんとアスファルトからの反射熱を回している。
「ユキちゃ、かってにいなくならないでね。」
「うん。」
「ちゃんとバイバイ、させてね?」
「……うん。」
つぶらな瞳が私を見上げた。私は吐きそうだった。
ジリジリと日差しが私を苛んで、垂れた汗が首を伝った。
まだ8月だった。7月の始めから夏休みに入ったのだから当然で、しかも葬式が続いたので葬式貧乏。
あの男は、施設に入ってから間も無くして死んだ。呆気なく死んだ。その顔は途方も無く穏やかで、悩みばっかりだった人生の欠片なんて微塵も感じさせなかった。
知って損する事は無いなんて、大嘘だ。何も知らないのが羨ましいから、全部忘れて死ぬ癖に。
扇風機の風と蚊取り線香に包まれた部屋、真昼間の部屋にサイレンが鳴った。終戦の黙祷の合図だった。
シュウはうるさーいと言って笑った。
何も意味を分かっていない顔だった。
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