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シュウのおでこに冷えピタを貼ったひぃじっちゃんが、私の顔を見た途端にそう訊いて来たのだ。みぞれさん。みぞれさんって、誰だろう。少なくともひぃじっちゃんのお嫁さん、ひぃばっちゃんの名前はみぞれじゃない。
「お久しぶりですねぇみぞれさん、相変わらずお綺麗です。泣きボクロはお化粧で隠してるんですか? あんまり贅沢しない方が良いですよ? ぜいたくは敵だ!って都会は五月蝿いらしいですから!」
「え? え??」
「あ、気が利かなくてすみません。暑いですよね、ぼく麦茶淹れてきます!」
「え!?」
ひぃじっちゃんは確かにそう言うと、また台所に行ってしまった。ひぃじっちゃんは、自分の事を俺と言う人だ。なのに今、ぼく、と。そう言った。それにひぃじっちゃんは、アイスを食べる時には麦茶を用意しない。お腹が冷えるから、と暖かい粗茶なら出された事がある。
「ユキちゃ、どうしたの?」
「ううん、なんでもないよシュウ。」
あぁ、そっか。私は、お父さんとお母さんとじっちゃんが、何を言いたかったのかが分かってしまった。私はたどたどしくも私を心配してくれたシュウに笑い掛けた。
「…………ん? 俺、どうして麦茶を淹れた?」
「しっかりしてよひぃじっちゃん! 私がお願いしたんだよ!」
「ユキちゃおねがい、いつしたの?」
「さっきだよさっき。私達アイスちっちゃかったから、暑いねって話してたよ!」
「そう、だっけ?」
ひぃじっちゃんとシュウは、こてりと首を傾げた。シュウごめんね。シュウが不思議に思うのは何も間違ってないよ。
「さっき程度のサイズのアイスとなら、腹を壊さない……か?」
「そうそう。大丈夫だからちょーだい、麦茶! 早くしないとひぃじっちゃんのアイス、もっと溶けちゃうよ?」
「あ、すっかり忘れてたな。」
バニラアイスはカップの中でクリーム状になっていた。食べるには楽だとひぃじっちゃんは飲み干してから、梅干し食べたみたいな顰めっ面をしてみせた。アイスクリーム頭痛って言うんだよと教えたら、そんな名前の頭痛があるかとデコピンされる。
その日はほんの少しだけ、ひぃじっちゃんに優しくしてみた。
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