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「ユキちゃ、寝ないの?」
「私はほら。持ってきた宿題しながらゴロゴロするから。」
「そっか。ユキちゃはいいこいいこ。」
「シュウもいいこいいこ。おやすみ。」
(X+6)×(X+4)=X二乗+10X+24。
(2X+5)×(2X-5)=4X二乗-25。
(X+8Y)×(3X+Y)=3X二乗+8Y二乗+25XY。
雨音が止まない中、夏休みの宿題をずっとやっていた。どんな数字が付いていても公式展開というものは慣れてしまえるもので、最早単調な作業に近かった。
ざぁざぁ。ざぁざぁ。
ひぃじっちゃんもどうやら昼寝を始めたらしい家は、とても静かだった。カエルすら鳴かない豪雨だった。シュウが寝返りを打ってタオルケットが肌蹴るのを直しながら、作業を続ける。
ぎしり。
床が鳴った音がした。集中していた私はびっくりして、思わずシャーペンの芯を折ってしまった。それは虚ろな眼をしたひぃじっちゃんだった。
「…………ひぃじっちゃん?」
返事は無かった。誰なの。いつもの男じゃないの? でもあの人は、こんな死んだ目をした事ない。それにみぞれさんに、こんな怖い顔をするのだろうか。
「みぞれさん。」
「…………は、い。」
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