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見知らぬ男が介護服の人に連れられて、ワゴン車に乗る姿を見た。
「あぁ君は、みぞれさんに良く似ているねぇ。」
声を掛けられて、男が私を知人と見誤っていない事にほっとする。みぞれさんとは結局誰だったのか。
答えはじっちゃんが知っていた。
「みぞれさんってのはな、ユキのばっちゃんのお母さんの事だよ。」
「……でもひぃばっちゃんは確か、みぞれなんて名前じゃないよ? 会った事無いけど。」
「みぞれさんは、ひぃじっちゃんが戦争に行く時にばっちゃんを身篭った。そのつもりは無かったらしくて申し訳無いやらで堕胎薬やら飲んでたらしいが、それに負けずにばっちゃんは産まれて来ちまったんだ。いや、産まれてきちまった、なんて。この言い方は良くないか? でも凄い話だろ。」
「その後みぞれさんは、どうなったの?」
「産まれたばっちゃんを育てる為に、なんせ相手は戦争に行ってたからな。出稼ぎに行ってばっちゃんはこの田舎に預けたままで、それきりだ。」
「実はばっちゃんを棄てて逃げたとか、そういうんじゃないの?」
私はみぞれさんに良くない印象しか無かった。ひぃじっちゃんはみぞれさんに誑かされた、そう思っていたからだ。行方を突き止めてやりたかった。それなのに。
「…………みぞれさんは、長崎で溶けたんだ。」
私とひぃじっちゃんを散々振り回し蝕んだみぞれさんは、気の良いしっかり者のお姉さんでしか無かった。自分に何かあったら宜しく、そう言われて当時のばっちゃん、赤ん坊を預かったのが、家系図に残るひぃばっちゃんだったそうだ。
「ユキちゃ、ひぃじっちゃが、シュウにだれ?って。」
「シュウ。あそこにいるのは、ひぃじっちゃんじゃないよ。」
「ひぃじっちゃだよ?」
「ひぃじっちゃんに似てるだけで、違う人だよ。」
「みぞれさんと、おんなじ?」
息を呑んだ。
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