二人との約束

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お経を唱えたあとの坊さんが、七回忌ともなると法事すら行わないところが増えたがこの家はこれほど集まりが良くて珍しいと挨拶した。大おばあちゃんの家で法要を済ませ、黒服の団体はずらずらと連なって墓参りに出向いた。会って数時間経っても誰かわからない親戚のおじさんやおばさんはいるが、あのおじさんだけはいなかった。 「ねえお母さん、あのおじさんは?」 耐えきれずお母さんに聞いた。 「あのおじさんって?」 「お母さんがよくバンパって呼んでた人」 お母さんは目を細めた。 「また夢の話?もうすぐ中学生になるんだからそんな話やめなさい」 私は大おばあちゃんが死んでから何度かお母さんにおじさんの存在を確認していた。でも、答えはいつも「知らない」だった。しまいには子どもの頃に見た夢と現実が混同しているんだとまで言われた。私は当時幼かったけどバカではなかった。記憶違いのはずがない。でも子どもながらに、バンパの話をするお母さんやおばあちゃんに対して当時は不信感を抱いたこともあったから、この知らないとう反応こそ、むしろ正しいのかもしれないと思えた。 墓に着くと私たちより先に墓参りをした形跡があった。まだ消えない線香の煙と一輪の花。ひまわりだった。おじさんおばさんはさも当たり前のようにひまわりを花立から抜き、代わりに小菊を供えた。私はそのひまわりを手に取ると来た道を走った。左右見回しても誰もいない。私は田んぼのある方へ無意識に走った。真っ青な空、黄色く日焼けした土の農道、青々とした田んぼの稲。その中に私の黒服は不釣り合いだった。 「おじさん」 誰もいない田んぼに向かって叫んだ。私の声がこだました。返事はない。代わりに生ぬるい風が私の顔を撫で、田んぼのそばで花咲くひまわりを優しく揺すった。
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