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「おじさんはね、私が百歳になるのを待っているのよ」
笑顔で大おばあちゃんが言った。私以外、みんなニコニコしている。
「その話を始めると長くなっちゃうんだから」
「そうだぞ、朝まで話を聞く羽目になるぞ」
大人たちはまた笑った。
大おばあちゃんの話はこうだった。
昔、この村で若い娘が次々に誘拐される事件が起きた。みんな20歳前後の嫁入り前の娘たち。いなくなった娘たちの痕跡は何も残らず、目撃者もなく、そして死体も発見されないから生きているのか死んでいるのかすら分からなかった。そんな中、学校の帰り道に大おばあちゃんは何者かに誘拐され山の中に連れていかれた。後ろ手に縛られ目隠しをされた大おばあちゃんは身動きの取れない状態でも必死にもがき、自分を攫った人にたてついた。
「あなたが村の娘を襲う犯人?私をどうするつもり」
少し離れたところから男の声が答えた。
「私は人間の娘の魂を食んで生きる者。食われた者は二度と人目に触れることはない。今夜はお前だ」
「誰がお前なんかに!それに今の私を食べたらあんた、お腹壊すんだから!」
「どう言うことだ」
「私の名前を知った上で襲っているのかしら?私はモモカ。百で花咲くと書いて百花よ。私は百歳になってようやく人としてそして女として大成するよう名付けられたのよ。あなた、緑色の硬い桃と赤みの帯びた桃、どちらを食べるの?」
「……赤い方だな」
「なら私が熟すまで待ちなさい。百歳になった瞬間の私の熟した甘い魂はきっとあなたの舌をうならせるはずよ」
大おばあちゃんは必死に出まかせを並べたらしい。でも焦りを見せずまるで事実かのように真剣な口調で。
「ならばお前が熟すまで、私が側でその様子を見届けよう。そして百を迎えた瞬間、その魂を私に捧げよ」
目が覚めると大おばあちゃんは山の中に一人で倒れていたらしい。その後から嘘のように村での誘拐事件は無くなり、代わりに家に おじさん が住むようになったとか。
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