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私とおじさんの行きつけは、大おばあちゃんちから歩いて五分ほどのところにある農業用水路。私が生まれるずっと前に田んぼに水を送るために作られたらしい。子どもが足を入れても溺れない深さで、水面が太陽の光でキラキラ輝いていた。水の中ではアナカリスやフサモなどの水草がユラユラ揺れながら生えていた。水路はコンクリートでできていて、古くなったその割れ目にサワガニやザリガニが身を潜めている。細い枯れ木でコンクリートの割れ目を突くと、サワガニがハサミで戦いを挑んでくる。その隙にもう一本の枯れ木を隙間に刺し、サワガニの体を割れ目から引っ張り出す。するとハサミの動きに集中していたサワガニはするりと水路に体を落とす。ザリガニはなかなか手強いので私はサワガニ専門で捕獲する。
サワガニとりを教えてくれたのはおじさんだ。コンクリートの隙間だけでなく、大きな石をどかすとサワガニの他にタニシも捕まえられた。たまに私が夢中になりすぎて水が深い所に行ってしまうと、「ヒルが出るぞ」と教えてくれた。ヒルに一度くるぶしから血を吸われ大泣きをしたので、私は「ヒル」と聞いただけで言うことを聞いた。
おじさんは麦わら帽子をかぶり、私と一緒に水路に入っていた。
「今日はきっと大量にとれるぞ」
来てまだ十分も経っていなかったが、おじさんのバケツには既に五匹もサワガニが入っていた。
「何で?」
「昨日は一日中雨が降ったからな。おじさんもよく知らんが、雨が降った次の日はサワガニやザリガニがよくとれるんだ。あとで田んぼも行ってみるか。今日はドジョウやカブトエビもたくさんいるぞ」
「ふうん」
私はドジョウが苦手だった。見た目が気持ち悪い上に、サワガニと一緒に飼っていたらいつのまにかサワガニに食べられていたから。カブトエビもサワガニに比べると小さいしすばしっこくて捕まえにくいから苦手だった。
「ねえおじさん。おじさんは何なの?」
今思えば、何であの時あんな事を聞いたのか、自分のことなのに分からなかった。
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