夏の日

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─秋庭昌之side─ 「昌之、明日からの旅行の準備はしたの?」 「んー?財布があれば何とかなるだろう」 「…怒るわよ」 「冗談だよ。準備はしてある」 「そう。じゃあ私はもう寝るわね。旅行、楽しみだわ」 「うん。お休み、椿」 カラン、と 寝酒にと用意したグラスの氷が溶ける音が響く。 引退していてもおかしくない70歳の老いぼれが未だに、一日たりとも忘れたことがない。 生きていたら…なんて話をしても仕方ないが… 生きていたら、お前は蓮に組を譲って、田舎にでも家を建てて自給自足の自由気ままな生活でも送っていたのだろうか。 お前の大切な忘れ形見が、組は絶対に継がないと言い張るものだから、俺は70になった今でも現役だよ。 柊の頭は、俺を殺してでも…蓮に組を継いでほしいと思ってるんだろうな。 若いが、柊の頭は蓮がどれだけ優秀な男なのかよくわかってるよ。 お前が継ぐはずだった組を任されてもう何十年も経ったが、俺は上手くやれているだろうか。 もう十分生きた。 お前に会えるのならいつ死んでも構わない。 そんなこと言ったら、あの頃と変わらない容赦のない鉄拳制裁が待ってそうだから、迎えが来るまでもう少しこの世界で頑張るよ。 喧嘩しても一度も勝ったことないからな。 お前に会いたくてそっちに行ったのに盛大に殴られたら笑えないだろ? 豪快で大胆で、度量が広くて情に篤い。 歴代随一といわれた腕っぷしの持ち主のくせに、自分にどれだけ罵詈雑言が降りかかろうと盛大に笑って流す。 そのくせ…組の誰かに何かあった時は血相変えて先陣をきる。 70歳の老いぼれが今だって憧れ続けているその背中に、少しは近づけただろうか。 「会いてぇな…」 死ねば会えるぞ昌之!! なんて豪快に笑いながら言うんだろうけど、本当に死んだら、そっちでお前に殴られるのがわかってるからなぁ。 次にお前に会う時は、そっちで積もる話を。 お前の自慢の息子の話、俺の大切な家族の話 話したいことが沢山あるんだ。 「早いな…また一年経ったか…」
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