第三章 西の人

27/30
前へ
/233ページ
次へ
蓮さんだけでなく弘翔とも仲が良いらしい柊さんは自分の杯を空けてから私に視線を移した。 「お嬢ちゃんはいける口かい?」 「い、いえ…あんまり強くないので…」 こんな場所で醜態を晒すわけにはいかず、丁重にお断りした。 ん...?もしかして、偉い人のお酒断るのって失礼だったかな!? 私の心配をよそに、気を悪くした様子もなく「ならしゃーないな!」と楽しそうに笑っている柊さん。 蓮さんとは別の意味で、掴みづらくて真意を見せてくれるタイプの人じゃないみたいだけど…その人柄は今までの行動が物語っている。 弘翔が好きそうなタイプだよなぁ柊さん。 「柊さん!さっきは本当にありがとうございました」 「あぁ、別に気にせんでええよ」 「でも…」 「君の為やないしなぁ。それより、名前は?」 「あっ…横手美紅です」 「そか、改めてよろしく別嬪さん」 お酒が回っているからか、かなりのテンションだけど、聞いておいて名前で呼ぶつもりはないみたいだ。 線を引くのが上手いというか…やっぱり掴み辛い人だ。私が立ち入れないくらい雲の上の地位の人だから当然か。 「弘翔とも親しいんですか?」 興味本位で思いついたことを口に出せば、とても驚いた顔をされる。 隣では弘翔が「あっ…」って顔してるし。 「なんや、聞いとらんのかい?」 「何をですか??」 「あー美紅、すまん言い忘れてた。俺、大学は京都だったから4年間稜真さんのとこで世話になってたんだよ」 「そうだったんだ…」 仲が良いのも納得だ。 だけど…他の組なのに揉めたりしなかったのかな。極道の世界のことはよくわからないけれども。 「そりゃ盛大に揉めたで。まだ秋庭との同盟前やったしな」 思っていたことがまたしても顔に出ていたらしい。 「まぁ、他ならぬ親友の頼みやったからな。当時は若頭だった僕がうちの総長をなんとか口説き落としたってわけや」 そこまで言えば、上座から昌さんの笑い声。 柊さんの声が大きいので話が聞こえていたらしい。 珍しく聖弥さんも笑いを噛み殺している。 秋庭の幹部連中に関しては今までの談笑ムードが嘘だったかのように爆笑だ。 なぜ?と思って弘翔を見れば…この中で唯一、眉間に皺を寄せている。 完全に話についていけていない私に(傘下や同盟の組長さんたちも分かってないみたいだけど…)助け舟を出してくれたのは…、 「柊総長、私の酒も一杯いかがですか?」 少しだけ口角を上げている土方さんだった。 「若が東京の大学に行くか京都の大学に行くか盛大に揉めましてね…。うちの組長代理と」 「それって…」 「はい。最悪な兄弟喧嘩です」
/233ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4317人が本棚に入れています
本棚に追加