第三章 西の人

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「お前…全ての片が付いたらどうするつもりや?」 「どういう意味でしょうか?」 「だから...誤魔化すな」 「…………。」 「弘にあっさり若頭を譲った時から思っとったが…お前、秋庭にはなんの思い入れも通す義理もないんやろ」 「…………。」 「お前が示した道の先で弘が幸せになったその時、お前はなんの為に生きるつもりや」 「…………。」 「また腑抜けた廃人にでも戻るつもりか?って聞いとんのや!」 「…………。」 「…………。」 「…………。」 「…すまん、言い過ぎた」 「私は君のそういうところ好きですよ」 「そりゃどうも」 「……………。」 「なぁ蓮。何度も何度も言うとるが、僕が信用してるのは秋庭でも春名でもなくお前だけやぞ。三季会の話も東との同盟の話も、全部お前を信頼してたから納得したんや。わかっとるよな」 「君は昔から私を買いかぶり過ぎですよ」 「僕は蓮以上の男を後にも先にも知らんからな」 「…………。」 「弘のためにお前が死ぬのは許せる。だが、秋庭にお前が飼い殺されるのは認めへんぞ」 「君にそこまで言ってもらえるとは、親友冥利に尽きますね」 「茶化すなや。怒るで」 「もう怒っているでしょう」 「…………。」 「…………。」 「秋庭のおっさん連中の何倍も、僕は芹沢蓮の価値をわかっとる」 「君が言いたいことはちゃんと理解しているつもりですよ」 「なら話は早いな、西に来い。 柊の好きな席を用意しといたる」 「…総長がいいですね私は」 「試しても意味ないで。何度も言うとるやろ、蓮の下につくなら構わへん」 「冗談ですよ。自分の身の振り方は自分で考えます」 「おい...蓮」 「これでも...君にそこまで言ってもらえて素直に嬉しいんですよ」 「それなら...」 「ですが、やはり自分の生きる道は自分で決めます。どうするかはゆっくり考えますよ」 「…………。」 「…………。」 「まぁ…金は腐るほど持っとるしな蓮は」 「そうですね」 「ちょっとは否定せえよ…」 「…………。」 「…………。」 「来年の2月と3月、またしばらく日本を離れようと思っています」 「またかい。相変わらず独特な勤務体系やな」 「君の手を煩わせるなら、おそらくその期間になるでしょう。先に謝っておきます」 「改まってやめてくれや。キモいで」 「失礼ですね君は」 「今さら頭下げ合うような関係やないやろって意味や」 「それもそうでしたね」 「…………。」 「…………。」 「なぁ蓮、僕たちが出会って間もない頃にお前が僕に言ったこと、覚えとるか?」 「…ええ、もちろん」 「今でも…あの時お前が言ったように…僕の性格は蓮の親父さんに似てるか?」 「……………。」 「……………。」 「……………。」 「……………。」 それを言わせますか...私に。 「豪快で大胆不敵、情に篤くて漢臭い。 自分以外の大切な物の為に全てを掛けられる男」 「...............。」 「私が今でも追い続けているあの背中に、君はよく似ていますよ。出会った時と変わらずにね」 「光栄やな」 「……………。」 「……………。」 「では、そろそろ出ましょうか。 明日の昼には京都に戻るんでしょう」 「せやな。ゴチになるで蓮ちゃん」 「…本当、いい性格してますね君は」 「嫌いじゃないやろ?」 「さぁ?どうでしょうか」 ──「あぁ…そうでした。稜真」 「ん?」 「一つだけ、訂正があります」 「なんのことや」 「私はあの時から、たしかに弘翔の為だけに生きています」 「知っとるよ。だから、弘がこの世界からいなくなったその時、秋庭にいる意味があるのかって聞いたんやろ」 「秋庭には思い入れも、通す義理もないと言ったでしょう」 「あぁ」 「弘翔と比べれば取るに足らないものではありますが…」 「…………」 「父が命を()して守った組です」 だから 「私が秋庭の為に生きる理由なんて、それだけで十分でしょう」 『今でも父は、私の誇りですから』 「……そうやな」
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