夏の日

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高巳と夏樹さんと盛り上がっていれば、弘翔が小走りでやってくるのが見えた。 珍しく焦っているような...。 「美紅!!」 「あっ、ヤッポー弘兄!」 「慌てすぎだろ。必死じゃん」 「お~弘~、顔が怖いぞ~!!」 うん、顔が怖い。 なんか怒ってる弘翔?いや、何もしてないよね私。 弘翔以外の三人は楽しそうだし。 「ッッ、…美紅、これ着とけ」 囃し立てる三人を一睨みしてから、自分の着ていたTシャツを脱いで焦ったように手渡してきた。 早く着ろと無言の圧力。 私としては弘翔の上半身を他の人に見られる方が嫌なんだけど… ほら、事の成り行きを興味深そうに見ていた女の子たちが小さな歓声を上げてる…。 高巳と夏樹さんだけでもギャラリーが凄くて、みんな目をギラギラさせていたのに弘翔まで登場しちゃったら…なんか獲物を狩るような視線が…。 私、刺されないかな。 高巳や夏樹さんはナンパだなんだ言いながらも自分の容姿を自覚して、ある程度は線を引いているからまだいい。 問題はこの人だ。 自分の容姿にもう少し興味を持った方がいい。 こんなところで堂々と上半身を晒すな! しかもどさくさに紛れて高巳と夏樹さんも口笛を吹いて囃し立ててるし…葵ちゃんは笑ってるし…。 頼むからこのTシャツ、私じゃなくて弘翔に着てほしいんだけど…。 なんでもいいからその綺麗に筋肉の付いた身体を隠してくれ。 「いいね~弘、肉体美ってこういうのを言うのかね~」 「6個?8個?弘ってこんなに綺麗に割れてたっけ?もしかして美紅ちゃんの為に鍛えたん?」 「弘兄!ちょっと一発殴らせて!男の人の板チョコみたいな腹筋見ると殴ってみたくなるんだよねー」 「あら、葵ちゃんってSなの!?おいおい、こえ~な。気をつけろ~高巳!」 「俺に振らないでくださいよ!」 「Sじゃないですよ夏樹さん。綺麗な腹筋見ると固さ確認したくなりません??」 「「ならねーよ!!」」 「お前らいい加減黙れ! そして…美紅は早く着ろ!」 弘翔に一括されても三人ともニヤニヤしてるし…。もうなにこの状況。 高巳だって夏樹さんだって腹筋割れているはずだし、腕や足だけ見ても筋肉が綺麗なのがわかる。だけど二人とも上にシャツやパーカーを着ていて、見られない状態なので完全に我関せずで弘翔のことを面白がっている。 そういえば…弘翔以外の組員さんって全員、上に何か羽織っていて、上半身が隠されている…。 そして、私はなんでTシャツを着ることを強要されているのだろうか。 やっぱりこんな身分不相応な水着は似合わなかったのか…。 ちょっとショックだし恥ずかしいけど仕方ない。今度、真希たちには文句を言おう。 それにしたって…弘翔もそんなに怖い顔で怒らなくてもいいじゃん。 少しくらいは褒めてくれるかなって、似合ってるって言ってくれるかなって思ったのに… 「こんな余裕のない弘兄って初めて見たわー」 「弘~焦ってるのは面白いからいいけど、美紅ちゃん100%勘違いしちゃってるぜ~」 「弘ってそんなに俺様だったっけ?やめとけやめとけ、いきなりのキャラ変は嫌われるぞ!」 「いや逆じゃね〜?イケメンインテリ若頭は俺様ドSの方がモテるって患者の子が言ってたぞ」 「なにその圧倒的な少女漫画の登場人物感。ついでにツンデレ要素と変態要素も入れとけば完璧にモテるぞ弘!」 「だから俺にしときなって美紅ちゃん!若頭要素以外は俺でもなんとかいける気がするわ。大事にするよ?」 「あー…もう!黙ってろ変態共!!」 「「はい、黙ってまーす」」 もうこれは絶対に夏樹さんも高巳も全力で楽しんでいる。 弘翔はというと…苦虫を嚙み潰したような顔をして、乱雑に前髪を掻き上げた。 「頼むから着てくれ。嫉妬で気が変になる」 「……え?」 へ…? ん…? 「クソッ…悪いか!好きな女のそんな恰好、俺以外の男に見せたくないと思うだろうが!」
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