祭りに波乱は付き物

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急ぐか…。 待ち合わせ時間には余裕があるが、本家の辺りは治安が良くない。 もし美紅の方が早く着いていたらかなりまずい。 柊や春名といった主要な同盟相手には美紅が俺の女であるという通達が回っているが、傘下の組にはまだ正式に公表していない。 来週の会合で話を通すつもりであるが。 本家周辺の一帯は秋庭傘下の組が面倒を見ている暴走族や若い連中が幅を利かせている。 今までは秋庭に直接の害や不利益がなかったから見逃していたが…秋庭傘下の組を後ろ盾にして、自分たちのシマであると勘違いしている連中が多い。 強姦や薬の売買が横行しているという噂の絶えないような地域だ。 顔が割れているお袋や楓、桜や葵が本家周辺を一人で歩いていても何も問題はない。 いくら調子に乗った暴走族やチンピラでも、秋庭組の絶対的な権力を前には膝をつくしかないからだ。 楓に至っては、触れようものなら春名の悪魔が降臨するとさえ言われている。 だが…美紅はまずい。 正式に傘下に通達を出しておけば良かったと今更ながら後悔。 惚れた欲目を抜きにしても美紅はまずい。 あいつはよく俺に『弘翔と歩くと視線が痛い』だの『逆ナンされないか心配』だの言うが、そっくりそのままお返ししたい。 デートの時に他の男共の邪な視線から、可愛くて仕方ない彼女を守るのに俺がどれだけ苦心しているのかそろそろ自覚してほしい。 愛想尽かされないように、他の男に取られないように、柄にもなく毎日必死だよ。 チラリと腕時計を確認する。 15分前には着くか。 頼むから先に着いててくれるなよ。 俺は美紅を待たせるくらいなら、1時間でも2時間でも待つのは厭わないのだから。 祭りのせいで通行止めになっている区間があると踏んで事務所の最寄りから電車を使ったのはいいが…浴衣は走れないのがネックだな。 「あのっ…!おひとりですか?? 良かったら私たちとお祭り回りませんか!」 電車内で何やら視線を感じるとは思っていたが…これか。 勘弁してくれ。 美紅以外の女に興味なんてないし、職業柄目立つわけにもいかない。 「すまないが大切な人を待たせている」 ちょうど目的の駅に着いたのでそれだけ言い残して電車を降りる。 声を掛けてきた女は浴衣ではなく、夏だからか布面積の少ない服で、何故か上目遣い。 そして強調された胸の谷間が嫌でも目に入った。痴女かよ。 本当、勘弁してくれ。 美紅以外の女に欲情なんかできるか。 俺はそこらの女が逆立ちしても敵わないような人と付き合ってるんだ。 自分に自信を持つのはいいが過信して俺に絡むな。 お前たちが美紅以上に魅力的だと俺の目に映ることは断じてない。 今までは気にしたこともなかったが、本当に大切な人ができた今、一寸の興味もない女にあのようなアピールをされるのは存外、不快だ。 ──早足に改札を出て、待ち合わせ場所の公園に目をやれば… 「ッッ、」 思わず、見惚れた。 美紅によく似合う水色の生地に花びら模様が入った浴衣。 いつもは下ろされているのに上げられている髪。 毎日一緒に居て、四六時中、可愛いと思ってはいるが…。 これは、反則だろ。 あぁそうか…。 今あそこで道行く男共の視線を一身に集めている女性は俺の彼女か。 無意識に口角が上がった。
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