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夜、子どもたちを寝かしつけ、ぼんやりテレビを見ていたら、呼び鈴を鳴らす音がした。
もう11時なのに。こんな夜分に誰だろう。
旦那は……いま、風呂に入っている。
――ああ、仕方ない。
わたしはインターフォンを覗いた。
変な人だったら嫌だな。
わたしはぶつぶつつぶやく。
暗いからあまりよく顔が見えない。でも、どこかで見たことがある顔だ。ああ、あれ、近所の人?
わたしは玄関を開けた。
「こんばんは。夜分遅くすいません」
男性は非礼をわびた。
スーツ姿だから会社から帰ったばかりなのかもしれない。
私は男性の顔をじっと見た。やっぱり見たことがある顔だ。
男性も私の視線に気が付いた。
「あの、隣に住んでいる……」
「ああ……、いつもお世話になっております。昼間、よく、奥様とお話しするんですよ」
「妻、妻の居所を知りませんか」
「え? 」
「帰ったらいないんです」
「ええええ!」
「連絡はないんですか」
「携帯もつながりません」
私は夕方のことを思い出した。
「うちには来てませんけど。昼間はいっしょにうちでお茶をして……夕方、商店街で奥様らしき人をみかけたような気もしますが……」
「そ、そうですか。その女性はどこへ」
「商店街を横切っていって……どこに行ったかまではちょっとわからないです。わたし、買い物帰りだったし、荷物が重くって……奥様に声をかけてないんですけど。綺麗なかっこうだったので、ご主人とデートかと思っていました」
隣の旦那さんはがっかりした顔をしている。
「すいません……」
わたしは思わず謝った。
「連絡が来たら教えてください」
隣の旦那さんはそういうと帰っていった。
「恋がしたい……ギュッと抱きしめてほしい」
「好きっていってほしい」
「まだ女でいたい」
「プルン」
彼女の主張を繋げて考えてみた。隣の奥さんはいまどこにいるんだろう。
私は窓から満開の桜の木を眺めた。
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