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「いやぁ、杏奈は絶対来てくれると思ってたよー」
指定された場所に車を止めると、優斗がそう言いながら助手席に乗り込んできた。
まるで自分の車に乗るように、慣れた調子で。
「あのねぇ、言っとくけど、私はあんたの専属運転手じゃないんだからね?」
ため息をつきながら、隣に座ったちょっと酒くさい優斗を見る。
会社の飲み会の、三次会まで付き合ったっていう優斗は、赤い顔をしてご満悦な様子だ。
「だって、うちが田舎なの知ってるだろ? 終電早くて」
「だったら電車なくならないうちに帰りなさいよ」
「でも杏奈は、来てくれたじゃん?」
ご機嫌顏の優斗と目が合う。私はさりげなく視線をそらす。
「ちょっとドライブしたい気分だったの。別にあんたのために一時間かけて、こんなところまで来たわけじゃない」
「じゃあドライブして帰ろうよ。湾岸線回ってベイブリッジ通って」
「私に指図しないでくれる? タクシーじゃないんだから」
優斗は私の隣でおかしそうに笑っている。
まったく、もう。
ほんとに私は運転したかっただけなんだから。
あんたのためなんかじゃ、絶対ないんだからね。
フロントガラスに映る、ビルの夜景を見ながら、もう一度ため息をつく。
そして私は今夜も、優斗を乗せて愛車を走らせるのだ。
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