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「君のことはとても愛してる。でも、やっぱり許されないんだ。分かって欲しい」なんて言葉を、リアリティたっぷりの演技で吐いたに違いない。耳たぶで揺れるピンクゴールドを触りながら。
それは彼のマークであり、所有物の証である鎖だ。それを愛しげに触れば、高尾芽依子は泣き崩れて頷いた。
木曜日、欲に濡れた上条梓をなだめながら、安西先輩は彼女の家に行った。同棲中の彼氏が帰ってくる時間ギリギリまで。
そして、上条梓が焦りを見せた頃に、彼は彼女の耳たぶについたシルバーのダイヤモンドを触った。
この様子を、私はお向かいにあるビジネスホテルから眺めていた。安西先輩がわざと開けたカーテンの奥で、二人が抱き合っている様を双眼鏡でじっくりと監視する。そして、上条梓の彼氏が帰ってくる時間を見計らって、連絡を入れる。そうして、二人の関係はくすぶっていく。
上条梓の悔しく歪んだ顔と、それでも彼を愛しているという甘さ、屈辱、焦り、喪失。だんだん、彼女の肌が青くなっていき、先輩が出ていったと同時に彼女は面倒そうに服を着た。
***
かわいそうだと思うのは、彼女たちが結局は彼のことを何も知らないからだ。私との関係を。
かと言って、私だって彼のすべてを知り尽くしているわけじゃない。彼は私を利用するし、私も彼を利用する。そういう協力関係なだけ。
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