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こっそりと耳元で言う。彼女の耳にはシルバーのダイヤモンドがきらめいている。その光が陰ったとき、彼女はすべすべの手に少しだけ力を入れた。聴こえるくらいに、ごくりとつばを飲む。
それから、とぼけて首をかしげた。
「やってるって?」
「セックス」
「………」
「してるんでしょ。他の人と」
「……そうだと言ったら?」
しばらくの沈黙後、彼女は私から少しだけ仰け反って、じっと見つめた。そして、微笑む。
私はどんな顔をしていたんだろう。間抜けにも呆けた目を、きちんと向けられていただろうか。
彼女の悪魔的な微笑が蛇を思わせる。獲物を喰らおうとする、そんな目をした。
「これ、内緒ですよ?」
そう言って、上条梓は唇に指を押し当てて笑った。
罪を愉しむ女には、存分に調子に乗ってもらわなければ。そうしてボロを出させればいい。どんなにガードが固くとも、この優越は長くは続かないし、さらに越に浸りたい欲が出る。その欲にまんまとはまって戻れなくなる。
あぁ、かわいそうに。
***
火曜日、安西先輩はピンクゴールドの高尾芽依子と一緒にホテルへ向かった。それをこっそりとスマートフォンのカメラで撮る。それを匿名で安西先輩に送りつければ、彼はいかにも憔悴した顔を翌日に見せて、高尾芽依子に別れを告げた。
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