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こうなったのは、私がいつまでも絵梨奈さんを追っていたからだ。わざわざ同じ課の隣の席を陣取っても、私が振り向かなかったから。それで業を煮やした彼が「これは罰だよ」と言って、絵梨奈さんを私から奪っていった。彼は欲しいものならなんでも手に入れたい人だ。それは、私も同じ――
「どうしたの、千夏。疲れちゃった?」
土曜日。会社帰りに、絵梨奈さんの家へお邪魔した。3LDKのマンションの一室。
ダイニングテーブルに座って、彼女は私が手土産に持ってきた「ばえる」と噂のスムージーショップのかわいい飲み物を並べてニコニコと笑っている。
「疲れたよぉー。絵梨奈さん、なぐさめてー」
甘えて彼女の手を握る。子供のころみたいに。「お姉ちゃん」と慕っていたあの時のように。無垢でかわいくて、素直で清純だったあの頃みたいに。
そうすると、無垢でかわいい、素直で清純なままの絵梨奈さんが私の頭を優しくなでた。
「千夏ってば、いつまでたってもあまえんぼだねぇ」
こういう時くらい甘えておかないと。私だって心が擦り切れることはある。優しい甘さが欲しくなる。そうして自分を保っていないとだめになる。
「結婚記念日、おめでとう」
すねたようにつぶやくと、彼女は「ありがと」と照れて笑った。
彼女の一番は私じゃなかった。だって、安西達也と結婚したから。
それだけの理由で、私は激しく嫉妬した。絵梨奈さんのことを自分のものだと勘違いしながら。だから、最初は安西達也が憎たらしくて仕方なかった。
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