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清潔でツヤとハリのあるナチュラルな黒髪。耳にかからないくらいの。そして、右に流した前髪が乱れて。
高い鼻は、綺麗な三角形。膨らむ。
爽やかに白く綺麗な歯列。舌でなぞって、舐める。血色のいい唇は薄く、噛めば甘酸っぱい。
小顔。首は平均的な男性くらいで、静脈が鎖骨まで伸びる。その筋に擦り寄せて。
太い血管と細くも太くもない腕に、柔らかそうな薄い毛。綺麗で滑らかな質感。
すらりとした体型。身長は172センチメートルくらい。体重は66キログラム。のしかかる。重み。息ができないほどの重み。
三十五歳で、既婚者で。
私は、絵梨奈さんを愛している。それと同時に彼も愛している。彼が私の気を引くために、わざと絵梨奈さんと結婚して、私をおびきよせた。まんまと蜘蛛の網にかかってしまった。同時に彼も私を喰らって、その毒に冒されている。欲張りたいばかりに、互いの欲を謀り合っている。ずっと隣で。
彼が触ったその手は、絵梨奈さんのどこを触ったんだろう。それを想像しながら、彼を受け入れる。好きなものが全部混ざった手を握りしめて、今だけは自分のものにする。全部、私の好きなもの――
〇時を過ぎて、私は隣にいる彼の耳を噛んだ。
「もう帰らなくちゃ」
「あぁ、そうだね……もう帰らなくちゃ」
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