欲謀

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 左手の薬指にはまったシルバーの指輪が、蛍光灯の光りでつややかに眩しい。それを睨みつけながら、私は手を伸ばして受け取った。 「分かりました」  それは同意と同様で。  私は、わざと蜘蛛の網にかかっている。  ***  健康的で柔らかいキメの細かい肌。  左右対称の、大きすぎず小さすぎないアーモンド型の目。  清潔でツヤとハリのあるナチュラルな黒髪。耳にかからないくらいの。そして、右に流した前髪。  高い鼻は綺麗な三角形。  爽やかに白く綺麗な歯列。血色のいい唇は薄く、柔らかそう。  小顔。首は平均的な男性くらいで、静脈が鎖骨まで伸びる。  太い血管と細くも太くもない腕に柔らかそうな薄い毛。綺麗で滑らかな質感。  すらりとした体型。身長は172センチメートルくらい。体重は66キログラム。  三十五歳。既婚者。  安西(あんざい)達也(たつや)は顔面偏差値が高いだけでなく、気遣いもでき、優しくて頼りになる、絵に描いたように整っている。  そんな先輩の下で働いていれば嫌でも気づく。  彼は、モテる。社内で最も好かれる男だ。すれ違ったら女性の誰もが振り返る。そして、挨拶でもされればころっと騙されてしまうだろう。放っておくはずがない。社内の王子様なのだから。     
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