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欲謀
何気なく、仕事の休憩でスマートフォンを開いていた。SNSのタイムラインをゆっくり眺める。
その中で、絵梨奈さんの笑顔を見つけた。『サプライズ』とだけ書かれた投稿文に、写真が添付されている。
黒い紙袋には店のロゴが。男性もののブランド。毎年、財布か時計を贈っているから、今年もそのどっちかだろう。
微笑ましい彼女の頬をなでても、冷たい無機質なガラスを触るだけ。そんな彼女の上に突如、トークアプリの通知が落ちてきた。
『今夜、いつものとこで』
短い言葉を通知だけで読み取れる。
先輩からの呼び出しだ。左隣にいるのに、彼はわざわざアプリで連絡をよこしてくる。
目の端で盗み見れば、先輩もスマートフォンの画面を眺めていた。視線を感じたのか、口元を緩ませた彼の指が止まる。そして、黒い瞳が私を見る。私は目を逸して黙っている。
やがて、彼は「ふうん」と挑発的に鼻で笑うような声を出した。デスクの引き出しを開けてクリアファイルを取る。中からエクセルのシートで組まれた資料が出てきた。
「鮎川、これ、コピー頼んでいい?」
わざとらしい言葉。わざとらしい頼み。わざとらしい微笑み。
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