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「あっ、清子ちゃん」
睦美が止めに入る前に帽子のつばを上げて金色に輝く瞳を合わせる。
『清子と貴女は友達よね?』
相手の脳に直接語りかけ一時的に掌握し自分の印象を操作する術だ。
「あれ? 何言ってんだろわたし。ごめん清子ちゃん、変なこと聞いちゃった。今日は部活だっけ? じゃあ、また明日ね!」
「うん、さようなら」
清子もにこやかに手を振って見えなくなるまで見送る。
終わると緊張と初めての術で一気に疲労感が押し寄せる。清子は崩れ落ちるようにへたり込む。
「今何したの」
睦美が少し怖い顔をしている。掴まれた肩に力が入っていて心の方が痛くなった
「少し術を使ったの。初めてだったけどうまく発動できてたから大丈……」
「なにそれ、じゃあずっと術? にかかったままになるの? なにが大丈夫なの」
初めて睦美が怖いと思った。
悪気はなかった。睦美も困っているみたいだったから早く退散してもらおうと思っただけなのに。経験豊富な妖なら意図的に長期間掌握する事もできると思う。未熟な清子では発動できたのが奇跡に近い。どもりながら必死に言葉をつないだ。
「だっ大丈夫、十分くらいしか持たないから。睦美も困っているように見えたし、清子がって思ったの。術が解けたら清子のことも忘れるから大丈夫だよ。本当にごめんなさい。ーーやっぱりもう帰るね」
出口なんて覚えてなくて近くの一階の窓から飛び出す。適当に走って目についたフェンスを軽々と跳び越えて睦美の家に向かった。
精神的に余裕がなくて、術の使用を睦美とその友人以外に見られていたことに気づかなかった。
あれから二日、睦美とはあまり口を聞いていない。清子自身も森の岩や満開になった桜を一人で眺め、避けている。気がつくと睦美を思い出しては落ち込んでいた。
さらに翌日、睦美と同じ高校の制服を着た少年がたくさんの札を持ってやってきた。
「お前、やっぱりあやかしだったんだ。しかも鬼」
すんと鼻を動かすと懐かしい香りがした。
「その匂い嗅いだことあるわ。貴方、陰陽師の子孫ね。祖先のおかげで約束が果たせなかった。貴方のせいではないけれど嫌いよ。帰ってちょうだい」
清子は少年に背中を向けて岩に座ったまま動こうとしない。それに構わず少年は続ける。
「人間に術を使ったところを見てたぞ、曽祖父様が正しかった! 崎守にも術を使って操っているんだろう」
きっと少年との話は平行線だ。分かってる。だけど抑えられない怒りが湧いてくる。
「……使ってない。百年前も、今も。本当に友人だったの。桜を見る約束をしてたの」
力強く岩の上に立ち、勢いよく振り返る。
「見たかった! たきと桜を見たかったの!」
悔しさと一緒に涙が溢れでる。感情に呼応するように風が巻き上がり桜を連れて行く。
「じゃあ、桜を一緒に見よう。私じゃ物足りないかもしれないけど」
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