Extra Lesson

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 腕の中に大切に抱えていたものが抜け出そうとする気配で、出海碧惟はゆっくりと覚醒した。大事なものを逃さないよう、しっかりと抱き込む。 「ん……先生ったら」  耳をくすぐる声に、この温かなものが恋人だと悟る。  ますます深く抱き込んだ碧惟に、梓は非難の声を上げた。 「先生、まだ寝ぼけてるんでしょ? 離して」  何をそう焦るのだろう。むっつりと目を瞑ったまま、碧惟は眉をひそめる。  梓に不満などない。  それでも、しいて一つ挙げるとすれば、休日の朝に、碧惟の腕からさっさと抜け出そうとすることだ。 「先生。起きて朝ごはんの用意をしたいんです」  モゾモゾと動く梓を手探りで引き寄せ、碧惟は唇を合わせた。  もう一つあった。いつまでたっても、碧惟を先生と呼ぶことだ。 「先生?」 「……碧惟先生」  こんなところか。  碧惟と仕事をする以上、親しすぎる名前呼びは避けたいと、梓は碧惟の名を呼ぶことを延期している。ついうっかり人前で、絶対に呼んでしまうからと。  碧惟にしてみれば、そんなもの、いくらでも呼んでしまえば良いと思うのだが、碧惟のイメージやら体裁やらを気にする梓は、控えめに「碧惟先生」と呼ぶのがやっとだった。  正直、そんなのは料理教室の生徒にも、仕事で関わりのあるスタッフにも呼ばれているのだが、名前一つで恥ずかしがる梓を、しばらくは楽しむしかなさそうだ。 「おはよう、梓」 「……おはようございます」  ゆっくりと瞼を上げると、碧惟がこうも早く目を覚ますとは思っていなかったのか、目の前の梓は可憐に頬を染めた。碧惟の寝起きは、相変わらず悪いのだ。 「朝食なら、俺が用意する」  自分でも甘ったるい声だと苦笑しながら、背中をなで上げる。照れくさそうに身をよじる梓に、碧惟は笑みを深くした。  伸ばしかけのストレートヘアを指でくしけずる。地肌に触れたくて、うなじをくすぐれば、ピクンと揺れた体を引き寄せ、しっとりと唇を合わせた。  梓がくぐもった声を上げ、碧惟は覚醒していく。
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