Extra Lesson

6/9
819人が本棚に入れています
本棚に追加
/102ページ
「後は俺がやるから」 「ダメです! わたしにも教えてください!」 「今度な」  ここまで我慢した碧惟を褒めてほしいくらいだ。  なだめるようにキスしようとした碧惟の顔を、しかし梓は両手で突っぱねた。 「ダメ! 最後まで教えて?」 「………………どうして」  うなった碧惟に梓はひるんだが、諦めはしなかった。 「だって……わたし、もっとお料理できるようになりたいんです!」 「そんなの、別に俺ができるんだから」 「ううん、わたしも。今のままじゃ、正直先生や弥生さんが話していること、理解できないことも多くて。こんなんじゃ、いくら初心者役だからと言っても、本を作るときに迷惑をかけることは目に見えています」  確かに、梓の料理の腕は、まったくの初心者だ。少し前まで包丁さえ、ろくに握ったことがなかったのだから、仕方ない。碧惟だって、弥生だって、それを分かった上での仕事だ。 「ちゃんとフォローする」 「ありがとうございます。もちろん、ちょっとやそっと練習したくらいじゃ、今度の本には間に合わないことは分かってます。でも、それだけじゃなくて……」 「なんだよ」 「……先生のお仕事を……碧惟先生をもっと知りたいから。勉強して、自分でもお料理ができるようになったほうが、もっと碧惟先生のこと、分かるようになるかなって、それで……」  梓は徐々にうつむいた。碧惟に腕を突きつけているせいで、顔が隠せず、赤く染まった肌が丸見えだ。 「…………分かった。最後まで二人で作ろう」 「ありがとうございますっ!」  仕方ない。  できたばかりの恋人にここまで言われて、目の前の欲を優先させるほど、碧惟は意地悪くもなければ、狭量でもなかった。頬を染めた梓の瞳が輝くのを見ているほうが良い。  しかし、もっと頬を赤くするのも悪くない。 「……じゃ、どうやって時間を潰してくれるんだ?」 「え? だから、お片付けとか」 「えぇ? ……なぁ。俺が料理を教える代わりに、梓は何を教えてくれるんだよ」  ポケッと中途半端な位置で止まっていた梓の腕を掴み上げ、ソファへ押し倒す。少しくらいは、見返りがあっても良いはずだ。  もちろん、さっさとフォカッチャを焼き上げた後は、ベッドルームへ連れ戻すつもりであることを、梓も早めに知っておくと良い。  碧惟は、生地を捏ねたときとは打って変わって優しく、梓の柔らかな体に触れるのだった。
/102ページ

最初のコメントを投稿しよう!