ダドリー夫妻の朝と夜

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 そんなわけだったからエミリアは、夫とどう顔を合わせれば良いのかわからなかった。  もっとも次に会うのは明朝の朝食室だ。いざとなれば、気分が悪いとでも言って、朝食の時間をずらせばいい。実際、あれからドキドキしすぎて、ろくに食べられやしない。  それでも夫の動向が気になるのはいかんともしがたく、いつもの夜と同じようにドア越しに聞き耳を立て、夫がこの部屋を通り過ぎるのを待っている。  エミリアとしては出迎えたかったのだが、「奥様が夜遅くまでお待ちになっていらっしゃると思うと、旦那様はお仕事に集中できないようでございます」と家令に早々に釘を刺されていたため、やむなくこんな真似をしている。  ”旦那様が夜遅くまでお仕事なさっていると思うと、ゆっくり眠ることもできない奥様”がここにいるということは、執事や侍女はもちろん知っている。家令だけが知らないということはないだろうから、黙認しているのだろう。  階段が、規則正しく軋む。アーサーが上って来たのだ。  しかし、いつもなら聞こえる家令とのやり取りが聞こえない。今日はもう話すことがないのだろうか。  微かな足音は、着実に近づいてくる。  珍しく一人なのかと耳を澄ませたところで、その足音が止まった──ような気がした。  ──ッ!!  エミリアは慌ててドアから離れようとした。  しかし、物音を立ててはいけないことにすぐに気づく。エミリアがここにいることを、アーサーはもちろん知らない。知られてはならないのだ。  大きな目をさらに大きく見開くと、キュッと口を引き結び、そろりそろりと部屋の中へと向かった。  ここは長椅子とテーブルセットがあるだけの小さな応接室で、隠れられるようなところはない。  長椅子の向こうに身を潜ませても、すぐに気づかれてしまうだろう。  万が一、アーサーに見つかっても不自然ではない言い訳はないか──。  エミリアは、部屋に一人残る彼女のために侍女が残していったブランケットを手に取った。 * * *
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