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なんと、侍女は己の額をエミリアの額に擦りつけた。
「何をしている!」
「これが一番手っ取り早いんでございますよ。ええ、やはりお熱はございません」
きっぱりと言い切った侍女は、不遜な視線を一瞬だけ上げると、すみやかに下がった。
「少しでも体調に変化があれば、医師を呼べ」
「心得ております」
エミリアは、額にかかった髪を撫でつけている。
アーサーが直してやりたかったが、その必要はなさそうであった。
侍女の荒っぽい診察には憤りを感じたが、アーサーも夫としてその方法を覚えておくべきであろう。
次は、自分がまず先に確認することを決意する。
「エミリア、本当にどこも悪くないのだね?」
「ええ、アーサー様」
「わたしに合わせて、早くに朝食を摂ることはないのだよ」
「いいえ、アーサー様。無理などしていませんわ」
「それならせめて、もう少し楽な格好をしてくれば良い。この家には、わたししかいないのだから、髪など結わなくても構わない」
「そんな見苦しいもの、アーサー様にお見せするわけにはまいりませんわ」
「構わないと言った」
「……はい、アーサー様」
翌日からエミリアは、下ろし髪のままアーサーの前に現れるようになった。
眼鏡をしないアーサーには、妻の瞳が今朝はどんな葉の色をしているのかわからない。
けれど、彼女の歩く後には、今朝もストロベリー・ブロンドが春を祝福するように、ふわふわと舞っている。
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