* 後日譚 ~ ダドリー夫妻のお気に入り ~

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 なんと、侍女は己の額をエミリアの額に擦りつけた。 「何をしている!」 「これが一番手っ取り早いんでございますよ。ええ、やはりお熱はございません」  きっぱりと言い切った侍女は、不遜な視線を一瞬だけ上げると、すみやかに下がった。 「少しでも体調に変化があれば、医師を呼べ」 「心得ております」  エミリアは、額にかかった髪を撫でつけている。  アーサーが直してやりたかったが、その必要はなさそうであった。  侍女の荒っぽい診察には憤りを感じたが、アーサーも夫としてその方法を覚えておくべきであろう。  次は、自分がまず先に確認することを決意する。 「エミリア、本当にどこも悪くないのだね?」 「ええ、アーサー様」 「わたしに合わせて、早くに朝食を摂ることはないのだよ」 「いいえ、アーサー様。無理などしていませんわ」 「それならせめて、もう少し楽な格好をしてくれば良い。この家には、わたししかいないのだから、髪など結わなくても構わない」 「そんな見苦しいもの、アーサー様にお見せするわけにはまいりませんわ」 「構わないと言った」 「……はい、アーサー様」  翌日からエミリアは、下ろし髪のままアーサーの前に現れるようになった。  眼鏡をしないアーサーには、妻の瞳が今朝はどんな葉の色をしているのかわからない。  けれど、彼女の歩く後には、今朝もストロベリー・ブロンドが春を祝福するように、ふわふわと舞っている。 * * *
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