* 後日譚 ~ ダドリー夫妻のお気に入り ~

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「そんなにご覧にならないで」 「きみは、わたしを見てくれないのに?」  エミリアは、ほうっと息をつくと、観念した。 「……だって、アーサーが眼鏡をかけているから」 「だから、外すと言っているだろう」 「……だから……」  要領を得ない妻の言葉を吟味した結果、アーサーはまさかと声を上げた。 「これが気に入っていたのか」  ぷくりと唇を突き出したエミリアは、アーサーをじっと見上げてから、こくんと頷いた。  聡明なアーサーが眼鏡をかけると、ますます知的さが増す気がする。  随分と前の朝に一度見かけたことがあり、そのときにもつい見とれてしまったのだ。  そのとき以来の眼鏡姿であったが、やはりアーサーにはよく似合う。いつになってもアーサーを見るだけで高鳴る胸が、いつもよりさらに強く主張し、直視できない程度には。 「あなたのほとんどすべてが、わたくしのお気に入りよ」 「なるほど、全部ではないと言うのなら、なにが奥方のお気に召さないのだろう」 「……文句のつけようがないことかしら」 「それなら、わたしもだ」  アーサーは大きな手のひらでエミリアの頬をすくい上げ、再び額をコツンと擦りつけた。  これはどうやら、夫の気に入りの仕草だとエミリアは思う。  寝室を共にするようになってから彼は、朝に夕にこうしてエミリアに触れる。時に彼女の加減を心配して、時にこみ上げる愛しさに耐えかねたとでも言うように。  エミリアは、うっとりと目を閉じる。そして、細い指で夫の髪を撫でる。そうすると夫は必ずキスをくれるからだ。
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