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そのうえ、幼稚園全体のことをしっかり考えているし、おまけに凄く美人だ。
彼女のようになりたい。それが私の目標であり、夢でもある。
「そんな調子で大丈夫? 来年からは私、いないんだからね」と、冬美先生が言う。
「はい……。わかってます……」
そう、冬美先生は今月をもって保育士をやめてしまう。
いわゆる寿退社というやつだ。
冬美先生が幸せになることはとても喜ばしいが、それ以上に私は、寂しい。
「きく組」の園児たちと、冬美先生。私はこの春、多くの別れを経験しなくてはならない。
この仕事には別れが常に付きまとうって、分かっている。分かっているのに、それでも……。
「ちょっと、何ぼーっとしてるの?」
「へっ? あ、すいません!」
「きく組の教室、着いたわよ」
「あ、本当だ」
「まったく……。卒園式は明日なんだから、しっかりしてよね」
「は、はい……」
「それじゃ」
そういうと、冬美先生は隣の年中組、「もも組」の教室へと入っていった。
「はあ……」
また、冬美先生に怒られてしまった。少しは、成長した姿を見せたいのに……。認められたいのに……。
いや、いけない。こんな後ろ向きになっていては。子供たちのために、私がしっかりしないと。
初春の空気をすっと吸い込んで、私は、きく組の教室のドアを開けた。
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