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すると、一人の男の子が私のことを呼んだ。 「せんせー」 「何、健太くん? あ、もしかして健太くんが花ちゃんの折り紙を持ってたの?」 「違うよ! 俺のクレヨンがないんだよ!」 「えっ、健太くんも!?」 健太くんは、きく組の中で最も元気な男の子だ。 しかし、彼はいわゆるガキ大将でもあった。おもちゃを勝手に奪い取ったりなど、周りの子供たちに迷惑をかけることも多かった。 最近はそのようなこともだんだん少なくなってはいたが、彼を怖がっている子供がいるのもまた事実であった。 「クレヨンがないって、一本だけないってこと?」 「ううん。全部ない」 「ええ!? それも、持って帰った訳じゃないのよね?」 「うん。今日も使うのに持って帰るわけないじゃん」 「名前は書いてた?」 「ううん……」 これは困った。同時に二人の持ち物が無くなるとは……。 もしかして、子供たちの誰かが盗んでしまったのでは……。 考えたくないが、その可能性もないわけではない。 と、健太くんが、隣にいた和希くんの服を掴み、こう言った。 「和希くんが盗ったんじゃないの!」 「違うよ!」 いけない! 喧嘩が始まってしまう!  周りの子供たちも、不安を見せ始めている。 「う、う、うあ…………」 花ちゃんは泣いてしまいそうになっている。 一体どうすれば……。 いや、私がここでしっかりしなければ。 冬美先生にも言われたではないか。 そうでなければ、この子たちが、安心して卒業できない、と。
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