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「みんな落ち着いて! はい、先生の方向いて!」 子供たちの注目がこちらに集まる。 私は、花ちゃんの方へ近づき、耳元でこう言った。 「花ちゃん、折り紙はまた後で探そう? 今は、可奈子ちゃんに借りよっか?」 「え……。借りていいの? 可奈子ちゃん、嫌じゃないかなあ?」 花ちゃんが心配そうに私に囁く。 「大丈夫。可奈子ちゃんは優しいからきっと貸してくれるよ? 勇気を出して、貸して、って言ってごらん?」 花ちゃんは、目に涙を浮かべたままゆっくりうなずくと、可奈子ちゃんの方を向き、 「お、折り紙……、貸して?」 「うん! いいよ!」 二人の女の子は、互いに素敵な笑みを浮かべていた。 花ちゃんが、一つの壁を乗り越えていったような、そんな気がした。   次に私は、健太くんと和希くんの方へと歩いていく。 「和希くん。健太くんのクレヨンを取ってないのよね?」 「うん。絶対取ってないよ」 「健太くん。お友達を信じよ? 和希くんからクレヨン借りて一緒に似顔絵を描きましょ?」 「……わかった」 「和希くん。健太くんにクレヨン貸してあげて?」 「うん、いいよ!」 「よかったね、健太くん。ほら、お礼は?」 「……ありがと」 私は、健太くんの耳元で囁く。 「ね? こんな風に自分のものが無くなっちゃったら嫌な気持ちになるでしょ? もう人のものを勝手に取ったら駄目だよ?」 健太くんは、何も言わなかったが、赤くなった顔で、ぶんぶんと大きくうなずいた。 そして、花ちゃんと健太くんを含めた全員が、無事にお母さんやお父さんの似顔絵を完成させることができた。
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