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「まだやることあるから」
「だって、終わったって言ったわよ、あの子」
「終わってない」
「じゃあ、待ってる」
「待たなくていい。遅くなるから」
どっちも譲らない。段々と険悪になる雰囲気に私はいたたまれない。
ど、どうしよう!?
「遅くなってもいいわよ!」
彼女が藤沢先輩の手を握って言った。私の目はそこに釘付けになる。目の前で繰り広げられている光景が信じられなかった。私という他人の目があるというのに、彼女は先輩に迫っている。
こんな強引な人がいるんだ、と妙に感心してしまうけれど、今はそれどころではない。
「よくない。危ないから帰れ」
「藤沢君が送ってくれたらいいじゃん!」
先輩は大きく息を吐き、彼女の手を振り払う。その時一瞬見えた先輩の表情に、私の心臓が大きな音を立てた。
目を細め、眉根を寄せている。不機嫌顔をしていた頃の先輩の顔だった。ただあの頃と違うのは、今は本気で不機嫌だということだ。
先輩は不機嫌な表情を隠そうともせず、口を開く。どんな言葉が飛び出すのかと、私は思わずぎゅっと目を瞑った。
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