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意識を取り戻した時にはまだ被災現場に倒れていて、どこか数メートル先のところで救助隊らしき人たちが走り回っている。大丈夫ですかー、聞こえますかー、と絶えず声をかけていた。私は体の上に乗っている瓦礫を押し返そうと力を込めたが、どこかの骨が折れているらしく力が入らない。左を見ると、スーツ姿の男性らしき手が瓦礫の下から覗いている。右には、うつぶせに倒れた白髪の老女が血まみれで潰れていた。私はちょうど降ってきた瓦礫と瓦礫の隙間に居て、下半身が下敷きになるだけで済んでいた。
隣のおばあさんの手を握った。私に「生きて」と言って、背中を押した手だった。
兄ちゃんはボールがなくても淋しくないだろうか。母は向こうでもお化粧しているんだろうか。父は時間をどうやって確認しているのだろう。
仏前で手を合わせながら、十二年前のままの家族の遺影を眺める。
みんな私を置いていなくなってしまった。
おばあさんの身元は私には知る由もなかった。
けれど、おばあさんもまた、忘れていったのだと思う。
急がず、焦らず、ゆっくりと、届けに生きますから。
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