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ホームに降りるとすでに電車は停止していた。
兄や両親は一本前の電車に乗って行ってしまっている。これに乗れば向こうで合流できるはずだ。電車に乗るのは慣れているけれど、この路線は初めてだし、目的地も行ったことがない。本当に合流できるだろうか? でも乗るしかない。忘れ物を届けるのだ。家族全員分の忘れ物を詰め込んで、まんまるになったリュックを背負いなおす。
電車内にはすでに人がたくさん入っていた。席はまばらに空いていた。立っている人もいた。私は荷物が重いので、ぽつんと空いた席に腰かける。左隣には疲れ切った会社員風の三十代くらいの男性が眠っていた。右隣には、白髪が美しくそろっていてお花のようないい匂いのするおばあさんが姿勢よく座っていた。
おばあさんは私が座るときに少しだけ横にずれて場所を空けてくれた。私は軽く会釈をしながら「ありがとうございます」と言う。
「おひとり?」
おばあさんが話しかけてきた。
「はい、家族の忘れ物を届けに行くんです」
私は膝に乗せたパンパンのリュックを軽く叩きながら答えた。
「お若いのに」
おばあさんは切なそうに目を細めた。いったい幾つに見えているんだろう? 私はもう十八歳なのに。
「本当に、この電車で合ってるの?」
おばあさんはたたみかけるように尋ねる。小学生にでも見えているのだろうか。家族の向かった目的地は終点なのだから間違えるはずがない。
「はい。家族はこの路線に乗りましたから」
ちょっと冷たい言い方になってしまった。おばあさんは黙ってうなずいた。
正面よりちょっと左側にある開いたままのドアから、また数人入ってきた。小さい女の子を連れたお母さん。つなぎを着た健康的な肌の色の男性。高校の制服を着た三人組の女の子たち。
「ねえ、あなた」
おばあさんが再び話しかけてきた。
「忘れものって、どんな?」
リュックのほうを見つめている。
「ええっと」
私はリュックに入れたものたちを思い出そうとしたが、多すぎて思いつかない。形で思い出せないかとリュックの膨らみに触れてみる。
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