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海斗は急に出来た休日を楽しんだ。ずっとしたいと思っていたことを、色々した。映画を観たり、公園をゆっくり散歩したり、図書館に行って読みたかった本を読んだ。
海斗は心が休まり、穏やかになっていくのを感じた。最近は休んでいても、仕事のことばかり考えていた。
無断欠勤をしたのだ。おそらく会社はクビになるだろう。しばらくは、仕事のことを考えなくて良いのだ。
不思議と時間の感覚がなく、この素晴らしい時間がいつまでも続くようであった。
気がつくと、海斗は自宅に帰っていた。永遠かのように感じたが、過ぎればあっという間の休日だった。
「ただいまー」
返事はない。
「母さん、買い物かな?」
二階の自室へ向かおうと廊下を歩いていると、和室から声が聴こえた。
母の声だ。
「母さん? まだ和室にいたの?」
母は海斗に背を向けたまま、仏壇に手を合わせている。声が聞こえていないようだ。
「かあさーー」
海斗は和室に入り、母に声をかけようとした。その時、仏壇の写真が眼に入る。
父の写真の隣に、もう一つ並んでいる。
母が、仏壇に向かって声を震わせながら、こう言った。
「会社になんて、無理して行かなくて、良かったのに。休めば良かったのに、辞めて良かったのに。どうしてーー海斗」
母の言葉で、海斗は思い出す。
(ああ、そうかーー)
あの日も今日と同じような、快晴の、お出かけ日和だった。
海斗は会社に行こうとして、駅のホームに飛び降りたのだ。まるで、吸い込まれるように。
(そうかーー)
ポロポロと、海斗の体は崩壊していく。死んだ時の、姿になっていく。
頭は半分ひしゃげ、腕は片方なかった。足も膝から下がなく、這いずるように二階の自室へ向かった。
(そうか、あの日、こんな風にサボってたら、俺、死なずに済んだかな、ごめんね、母さん、ごめん)
海斗は何とかベッドまで着くと、倒れ込んだ。
海斗は目を覚ます。
カーテンの隙間から、明るい陽の光が差している。
カーテンを開けなくても、分かる。
今日も絶好の、サボり日和。
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