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海斗が朝起きると、カーテンの隙間から明るい陽の光が差していた。昨日まで降り続いた雨が嘘のように晴れたようだ。
一瞬、海斗の心も晴れやかになったが、今日も仕事だ。そう頭に思い浮かべた瞬間、どんよりと重たい何かがのしかかる。
海斗の仕事は、大手不動産支店の営業だ。先週からずっと、海斗は顧客に関するトラブルを抱えている。相手はその支店では有名人だ。上司も手を焼いている。
海斗は重い体を起こし、ベッドの横のカーテンを開けた。陽の眩しさに、目がくらむ。
このところ、休みの日は大抵天気が悪い。仕事の日ばかり、こんなに、いい天気で、お出かけ日和。
(サボっちまおうかなぁ)
海斗はそう思いつくと、途端に身体が軽くなった。
(そうだそうだ。サボっちまおう。あんな会社、クビになったって構わねぇ)
サービス残業が横行し、顧客からの電話は休日にも構わずかかってくる。気の休まる日はない。ネームバリューに惹かれて入ったが、海斗のいる支店は万年人手不足の、真っ黒なブラック支店だ。
(よし、サボると決まれば今から出かけよう)
海斗はベッドから出ると、パジャマを脱ぎお気に入りのTシャツとチノパンに着替えた。薄いジャケットを羽織り、財布を持つと、部屋を出た。
海斗は実家住まいだ。大学生の頃、父を亡くし、母と二人暮らし。母は正社員で働いていたが、昨年定年を迎えた。母が出掛けると言えば、最近始めたジムか、友人とのランチくらい。
朝のこの時間は、まだ家にいるはずだ。
海斗は足音を立てないように、そろそろと廊下を歩く。階段を降り、玄関へ向かう途中の和室で母を見た。父の仏壇に手を合わせているようだ。熱心にやっているうちにと、海斗は外へ出た。
外へ出ると、海斗の気持ちは益々明るくなった。今日は一日、好きなことをしよう。
口笛を吹きながら、駅へと向かった。
さあ、どこへ出掛けよう。今日は、どこでも好きなところに行けるんだ。
天気が良い、こんな日は。
まさに、サボり日和、だ。
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