カヨの場合

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玄関からすぐの部屋には大きなソファと机が置いている。応接室というところだろうか。 ここには、12歳の少年以外だれもいなさそうだ。 「お茶をお出ししますね。ちょっと待っていてください」 そういうと、少年は台所であろう場所へと姿を消していった。カヨは、ソファの前でただ立ち尽くしていたが、ふと周りを見回す。 本棚が部屋の角にいくつも配置されており、分厚い本が並んでいる。これをすべてこの少年が読んでいるというのだろうか。「記憶の行方」「思い出し方」等難しそうなタイトルがいくつもある。 「気になりますか?」 少年が戻ってくると、カヨはハッとして少年の方に目を向けた。少年は、どうぞと言って湯気がかすかに見えるお茶を一つ用意して机の上に置いた。 「かけてください。なにか訳があって、こちらにやってきたのでしょう」 「…」 カヨは少年に言われソファに座る。そして、少年をじっと見つめて、少年が話し出すのを待った。 「記憶を消してほしい人がいる。そうですね。だから、こちらに来てくださったんですよね」 少年の表情は変わらない。彼は先程から全く表情を変えていない。ただひたすらに、さきほどから説明しているだけ。カヨを気遣う様子も見えない。
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