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「どなたの記憶を消してほしいんですか?」
「父です」
「それは、何故ですか?」
「母は認知症で、私のことも父のこともわからないようになってしまいました。父は毎日母の様子を見にいきますが、会うたびに記憶がなくなってしまって、父が来ても理解できてないんです。
父はいつもショックを受けて帰ってきます。それが見ていられなくて」
少年は、そばにあったノートを自分の方にたぐりよせ、そのノートにカヨが話した内容を書いていく。
「それで?」
少年は、まだ話したりないだろうと判断し、カヨに話を続けるよう促す。
「父の悲しい顔をあたしは見ていられません。毎日毎日暗くなる父を見ていると、だんだんと以前の父ではなくなっている気がして」
「なるほど、それでは、お母様を見に行かれるのはどなたがいかれるのですか?お母様を放置、というわけではありませんよね?」
毎日父親が母親の様子を見にいっているのなら、かわりに誰かが傷つく必要がある。
「あたしが、あたしが母親と父親にちゃんとこれから孝行していくつもりです」
同じ目線で語ってくるカヨの目は、まっすぐと少年の目を見つめていた。相当な覚悟があるように見えた。
「わかりました。そういう覚悟をお持ちであれば、お手伝いしましょう」
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