1、中央営業所の素敵な運転士ライフ。

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★☆★  結局メインスイッチを入れたり切ったりしまくったら運賃機は直った。  正確には直ってなどいないのかもしれないけれど、なんとか使える状況になったのは僥倖だ。  どうにか運賃機が使えるのであれば運行ができる――はずだ。  時刻は駅発車時間を数分経過している。  下手すれば――否、確実にお客さんからの問い合わせの連絡が営業所に入っていることだろう。  いくら故障とはいえ始発から遅れるのは色々とよろしくない。  確かにバスは遅れるものだけれども、わざと遅れているわけじゃない。  そこには必ず原因が存在する。  道路状況然り、機械類の故障然り。  車庫を出て急ぎめに駅のターミナルへと向かう。  幸いにして道中二、三個ある信号はどれも引っ掛からなかった。  ここの信号に一つ引っ掛かると全部引っ掛かるという悪質極まりないもので。  すべてに引っ掛かると二分はタイムロスをしてしまう。  だからといって早めに車庫を出ると、バス停に前のバスがまだいる――なんてことが多々発生する。  それも仕方がなく。  そこは当社の誇る最大のターミナルで、日中でも系統は違えど三分――否、二分に一回はバスが発着しているのだから。  しかもこのターミナルは、豊富に乗り場がある中央駅とは異なり、スペースの関係上乗り場が四つしかなく。  平気で同じ乗り場で同発とか、一分差、全部のバス停で発車時間が同じ――なんてバグが発生しまくっている。  しかも待機スペースもほぼないので、どうしてもバスによるバス停につけるための渋滞が日常的に発生してしまうのだ。  朝夕ラッシュなんかは本数が多いのでしょうがないかもしれないが、今は日中帯である。  日中帯であればいくらでも避けようがある。  というか、他の運転士の方々は皆様怖いのでなるべく後ろが詰まったり、逆に前を急かしたりはしたくない。  もし、俺が後ろにつけて時間前に発車――早発でもされてしまっては、その運転士の責任になるわけだし。  下手したら俺にまで火の粉が飛んで来る可能性も否定はできない。  ともあれ、約七分遅れでターミナルへと侵入する。  中へ入るとトンネルのような闇が俺の視界を奪う。  けれど、それは一時的なものでしかなく。  珍しく一台のバスもいない四つの連続したバス停が視界へと飛び込んできた。  バス停につける前に方向幕をセットして、次に走る系統を確認しておく。  それが終わり。  左ウィンカーを出しつつ、俺は一番手前のバス停につけた。 『大変お待たせしました、バイパス経由の団地行きです』  そう外マイクで案内をして中ドアを開ける。  すると、バス停で待っていた十数人のお客さんがもぞもぞと前進して、次々にバスへと乗り込んでくる。
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