3人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
全員が乗り込み、着席および掴まり確認を実施した後、俺はギアを二速に入れてゆっくりと発進した。
ターミナルを出た信号を曲がって駅へと向かう。
道中で遅れの理由をアナウンスしたが、お客さんは特に気にしているような素振りは見せない。
ホッとした反面、どこか悔しさを覚える。
確かに俺のせいではないといえ、遅れてしまったのは事実だ。
たとえば大雪で全然前に進めず大幅遅延――とかであれば諦めがつくのだろうが、どうしても俺の性格故の問題なのか、バスが遅れることに対してどこか抵抗がある。
こんな性格ではバスの運転士には向いていないのかもしれないけれど、裏を返せばこういう時間に正確であろうとしているが故に、こうして今日もハンドルを握っているのかもしれない。
駅でも十人ちょっとのお客さんを乗せて、このバスの執着地である団地へと向かう。
途中のバス停をいくつか通過して交差点を左に曲がる。
その交差点はひどく狭いので、停止線の少し手前で停まってくれないと大型車は到底曲がりきることができないのだが――。
停止線を車一台分はみ出して、真っ赤な軽自動車が停まっている。
しかも、運転席でスマホをいじっている始末。
普段であればジェスチャーで下がってもらうようにしているのだが――スマホに夢中なようで。
俺が曲がれないことには気がついていない。
仕方なく軽くクラクションを鳴らして、ジェスチャーで下がってもらうように伝える。
……睨まれたぞ、おい。
元はといえば停止線オーバーランが原因なわけで。
大型車ではなく普通の乗用車であればなんとか曲がれるのだが、俺が乗っているのはバスである。
運が悪かった、もしくは自分が悪いのだと思ってもらうしかあるまい。
睨まれつつも下がってもらい、スレスレで交差点を曲がりきる。
軽自動車との攻防があったせいで後ろから猛クラクションを鳴らされたような気がするが、曲がれないものはどうしようもない。
きっと、クラクションを鳴らしてくるような輩は大型車を運転したことがないか、腹が痛いか何かでエマージェンシーなのだろう。
……腹痛いんだったらほんとごめんな。
そう心中で謝っていると。
「――あなた、運転が下手くそなのね。あれぐらいなら下がってもらわなくても曲がれるでしょ?」
走行中にわざわざ文句を言うためか、前の方へと移動してきたおば様にそんなことを言われてしまった。
『走行中の座席移動は危険ですのでお止めください』
前を向いたままそうアナウンスをする。
だが、効果はないようだ。
最初のコメントを投稿しよう!