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ああ、そうか、十連休なのに英〇があるのか。
それを知って無意識に笑みが出てきてしまう。
お客さんが乗り切るまでの間、耳を澄ませば――。
「なんで十連休なのに英〇検定があるんだよ」
「俺たちも十日間休ませろ」
そんな不満の声がうっすらと聞こえてくる。
俺も『十連休』どころか今回『十二連勤』なんだよな……。
君らよりも俺が休みたいまである。
まあ、年休を入れず、公出断りもしなかった俺が悪いので自業自得だけれども。
それどころか増務――残業を断らなかったせいで毎日凄まじい勤務になっている。
これ、拘束時間と労働時間の上限ギリギリじゃないか疑惑。
そんなことを考えているうちに車内が満員になる。
直通バスなので途中バス停の心配をしなくて良いのがせめてもの救いだ。
俺は中ドアを閉めて右ウィンカーを出す。
だが、場所が場所なので発進妨害をされてしまう――バスに。
駅のロータリーは出てすぐの道を必ず右に曲がるのに、このバス停は左端にあるのだ。
右に出ようとしたら次から次へとバスが追い抜いていくのはしかたがあるまい。
ようやく発進が出来たので、ギアを変えてスムーズに加速する。
駅周辺の左斜線に路駐車がいるエリアを越え、川にかかる橋を越える。
各停――普通の路線だとここまでに三、四個バス停があるのだが、直通だと終点まで通過なので精神的には楽だ。
けど、本当に超満員なので前ドアのところまで人が来ていて、左ミラーが超見にくい。
ほぼ見えてないと言っても過言ではあるまい。
そんな状態で運行をさせるなと言っても昨今は人手不足なので、こういう状況が日常化しつつある。
もちろん、日中はそんなことは大学線くらいしかないけれど、朝や夕方、夜は通常の路線でもこういうことになってしまう。
このバスみたいに直通ならばどうということはないが、各停でこの状態になってしまうと、乗るのにも降りるのにも非常に時間がかかってしまう。
それは仕方がないことなのだろうけれど、特に帰りの夕方、夜の時間帯はそれが顕著だ。
なぜかと言えば、上りと違って下りのバスは降りるバス停が人によって違うので、どうしても所要時間がかかるようになってしまう。
遅れた挙げ句に混んでるとなれば、途中バス停から乗ってくるお客さんも平常心ではなかなかいられまい。
なので、どうしても乱暴にカードをタッチしたり、降りる時に睨み付けられたり、営業所にクレームを入れられたり……。
しかもうちのバカ会社はクレームが入ると査定が下がるなんて噂がある。
明らかにお客さんに過失があるならともかく、そんなことでクレームを入れられたらたまったもんじゃない。
だからという訳ではないが、見習い時代は管理者にクレームがあったことを伝えずによくしらばっくれたものだ(悪い見本)。
もちろん、すぐにその事がバレて、めちゃくちゃ怒られたけれども。
ともかく。
超満員のまま長めのトンネルに入る。
速度は法定速度ぴったり。
他のドライバーの手本にできる模範運転だ。
だが。
……ふええ、後ろの高級車が左右に蛇行して煽ってくるよ……。
さらにパッシングもされてしまったゾ。
今時珍しい露骨な煽り運転である。
こういうときにするのはただ一つ。
それは――。
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