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一方の柾はというと、いかにも軽そうな風貌と金に近いくらいに明るい茶色い髪でその甘く優しげな顔を飾り、しかしその目だけは笑いながらも隙なく辺りを伺う鋭さを隠し持っていた。半袖を着れば僅かに見えるタトゥーを、チラチラと見せるでもなしに見せ、柾は季節を通して店の中ではカジュアルに半袖を好んだ、動きやすいから、と。だけど、そんなものはまるで虫除けの役割など果たさず、黙っていれば優しい王子様タイプの柾にいくらでも女が寄ってきた。もっともそのあまりの口の悪さに、その半分はギャップに絶え切れず立ち去って行く。
狭い店までの数メートルを、まるで全力疾走するかの如く、奥から勢いよく楓が駆けて来る。ドアを壊してしまうのではないか、と思わず首を竦めて呆れた顔をする柾を無視して、楓は柊の隣りを陣取る。
「なぁなぁ、柊兄いつまでおるん?」
「ん……そやなぁ、まだわからへんけど、まぁ当分はこっちおるよ」
「ほんま?」
「あぁ」
返事をしながら、柊は楓の頭をクシャクシャと撫でた。にこやかにされるままになっている楓は、柾も柊も人の頭クシャクシャに撫でるんが好きやなぁ……と、朧気に考えている。
この、大きな広い、大人の手。誰かが、楓の体中にその手を這わせる。なんだろう、この記憶は。その払っても払っても這い回るその手は、一体誰のものだろう。
楓の意識は一瞬にして白昼夢へと墜ちて行く。
柊は、楓のその一瞬を見逃さなかった。
「楓、お前、昨日またゲームにでも明け暮れてたんか?」
柊は、楓のその細い肩を軽く揺する。楓は少し遠くでその声を聞き、あぁそうだ、昨日はゲームをし過ぎて、ちょっとだけ夜更かししちゃったんだ、とぎこちなく柊を見上げた。
「……だって、全然思い通りに行かなくて意地になってきたんやもん」
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