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「息子が死なないことで未来は変わるかもしれない。変わってしまった未来で、苦しまなくていい人が苦しむかもしれない。それでも……それでもかまわない……」
市合は泣き出すのではないかと思うくらいに顔を歪めた。柾は何かを思い出したように忙しなくノートパソコンを開き、穴が開くかというほど画面を凝視している。
「あぁこれや。柊、どないする?」
楓がそれを覗き込んでも柾は怒りもしなかった。それどころか黙って楓の方に向け見せてくれる。
死者リスト。
「……な、に……これ……あっ、市合って……市合、灯……えっ、生後一ヶ月?」
楓は呆然と呟く。
柾は表の看板を消しドアに鍵をする。
「……妻は体が弱いので、多分最初で最後の子どもになります。妻が命をかけて、ようやく産まれてきた子どもなのに……」
その心の慟哭が聞こえたかのように、楓が反応する。
「……どうして……柊兄、柾兄、どうして……僕が殺したあの男の名前がないの?」
切羽詰まったその声に柊と柾は、楓の覚醒が近いことを悟った。
「あの人は、僕を……ずっと……殴って……抵抗しなくなったら……僕を……僕を……」
「楓、もういいから……」
柾はそっと楓の頭に手を伸ばす。
「……僕は、玩具じゃないのに……やめてって、何度も何度も言ったのに……だから……僕は……」
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