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夜半前まで降り続いた激しい雨が、ようやく小雨になったようである。
こんな天気に、こんな時間まで、しかもこんな裏通りの、更に奥まった場所にある店を開けていても無駄だと知りつつも、柾はカウンターに座りながら窓の外の雨を飽きもせずに眺めている。今日は何故かまだここを開けておかなくてはいけないような、そんな奇妙な勘を信じて、誰一人とこない店を開けている。
十人も入ればいっぱいになるような、小さな喫茶店である。木の風。喫茶店にしてはえらく風変わりな名前にしたもんや、と常連客が口を揃えて言う。しかし、柾はあえてこの名前にこだわった。柾だけではない。ここを拠点に世界中を飛び回るカメラマンの兄、柊もである。
それは二人が密かに出したメッセージでもあったが、決して誰にも気付かれることはなかった。
「いやな天気やなぁ、風まで出てきたわ。さすがに閉めるかな」
柾が一人呟いた時、ドンッと大きい音と共に慌ただしくドアが開き、転がり込むように少年が入って来る。柾はその騒々しい登場の仕方に動じることもなく、
「いらっしゃい」
と、まるで条件反射のように言う。
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