3/6
前へ
/21ページ
次へ
「誰もこんわ、閑古鳥や」  柾は沸いたお湯をマグカップに注ぎながら、言葉少なに返した。辺りにココアの甘く懐かしい匂いが広がる。 「しかし、誰か来たからこそココアを入れるのではないですか?」 「これか?」  柾はマグカップを少し掲げて聞き返し、片頬をあげて 「仕事終わったら俺が飲むんや?猫舌やからな、後片付けする前に入れて、店の鍵かけてからゆっくり飲むんが俺のささやかな楽しみや。わかったらとっとと出てってや」  いかにも招かざる客とばかりに語気を強めて追い払う。男達はさすがに諦めたのか、 「失礼しました」 ときちんと一礼し、ドアを静かに閉めた。柾は鍵を締め店の電気を落としてから、ココアを片手に奥のドアを開ける。 「行ったで。ほら、暖まるからゆっくり飲み」  そこにうずくまったままの少年は、震える手でマグカップを握りしめそっと口を付ける。 「……おいし……」  ホッと息をつき、呟く。 「おまえ、名前なんていうんや?」 「……か、楓……」  少年は身を震わせためらうように名前を口にする。 「楓、か。……おまえがなあ」  柾は最後は呟くように、楓に聞こえないように口にした。 「で、なにあったんや?」     
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加